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亜理沙は血の海に浮かんでいた。ぽつん、と暗い天井から、血が滴り落ちた。頬に落ちて、滑っていく。

これは自分の血だ。あたしの胸から流れて、溜まる。
涙の海より、ずっと落ち着く。胎内に帰ってきたみたいだ。

遠くで人の声がした。自分の名を必死に呼んでいる。

「亜理沙! 亜理沙……! 一体どこに……!」

声を上げれば届きそうだった。でも、手足も声帯も扉一枚隔てたように、届かない。動かない。

ふと、近くで猫の声がした。
聞き慣れた声だった。ベランダにいつも現れる、小さな侵入者。
間違いない、あの声はダイナだ。

猫は泳げるのだろうか? ふとそんな考えが頭に浮かぶ。

ピクリと手が動く。無意識に、猫の声がするほうに手足をかいた。

少しすると、目の前に猫が浮かんでくる。
濡れた毛むくじゃらを抱き上げようと手をのばす。

ダイナがいたのは小さな島になっていた。
砂浜に倒れこみ、近寄ってきた猫を見上げる。

もう一歩も動けない。
だって胸に穴があいてるもの。

ダイナはつぶらな瞳を向けてくる。そっと忍び寄ってきて、ヒゲが顔に触れた。心配そうにぺろり
と舐められた。

狂った世界なのに、ダイナだけがいつも通りだ。
亜理沙はあの日常に帰りたくて、ダイナに触れようと腕を上げる。

すいっとダイナが持ち上げられた。胸に抱かれている。

(達也クン………)

いつもと同じように、達也がダイナを抱いて優しく笑っていた。

(なんだ……やっぱり、これは夢なのね……)


「窓、開けておいてね。ダイナが帰れなくなるから……」

うなづき、達也は足音もなく去っていく。

「亜理沙!!」

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