1/10ページ目 24時間テレビも終盤にさしかかって、最高潮の佳境を迎えようとしていた。 スタジオの観客たちは一様に紅潮した頬を並べ、黙りこくってモニターを見つめている。 番組スタッフたちはこの仕事に自分が関わったという事実に、緊張にも似た興奮を覚えていた。 モニターには、走る兵藤会長の影武者が映っている。司会者は会長を涙ながらに讃えるが、どこかその涙もから滑りしていた。 煙草をくわえるディレクターの隣に、ADが収まった。 「もしかしたら……視聴率60%いくかもな」 「いや、絶対行きますよ」 後ろには、仕事の終わったはずのメイクや大道具まで集まって、固唾を飲んでモニターを見つめている。 正面の西尾アナウンサーはプロ意識でいつもの笑顔を浮かべてはいるが、先ほど二回も噛んでいる。 「お年のわりに、すごい体力ですね、兵藤会長は」 「……感動しました」 目を赤くした男の司会者のアップ。 いつもの嘘泣きだ。 「西尾さ〜ん!」 画面いっぱいに坂崎アナウンサーの顔が広がり、スタッフたちは 一斉に注目した。 西尾アナウンサーは、まるで子供みたいに目を輝かせている。 「こちらは和也城の坂崎です、地下へ向かうエレベーターの中にいます! 今そこに、城主に挑戦するため、伊藤カイジくんが乗り込みました!」 地下街という束縛された状況で、やっと現れてくれた英雄。 いや、無謀すぎる裏切り者。 テレビ屋をやっていてよかった。 番組スタッフは少なからず、こう思っているだろう。 この男を映すために、声をとるために、光を当てるために今までテレビ屋をやっていたのだと、今ならこう思える。 果たして、彼はこの街の救世主になれるのか。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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