1/2ページ目 一月一日。神社境内。 珍しくお詣りに行こうとアカギに言われて来たそこは、戦場だった。 どこから沸いたのか神社の隅から隅まで人が詰まってる。 よくもまぁ、ここまで人が来るもんだ。神頼みをしようにも、こんなに大勢いたらひとりひとりの願いすら、神様が覚えてるかどうか不安だ。 押され押されて流されるようにして、オレたち2人はようやく賽銭箱の前に来た。 (アカギ……随分熱心に祈ってるな) 背後から雨のように賽銭が舞い、ラグビーばりのタックルを貰いつつも、アカギは構わずに最前列で両手を合わせている。 そうだ、オレもお願いしないと……。 (え〜と、え〜と) 何も浮かんでこない。 前に兵藤とのティッシュくじで、願掛けに頼った結果負けた。 神は石田さんも佐原もオレも救わなかった。 でも……。 オレはまだここにこうして立っているし、アカギと出会わせてくれた。 まずは……。 (亡くなった佐原や石田さんが、安らかに眠れますように……) 土壇場で神頼みをしてしまったオレへの罰なんだろう、あのティッシュくじの負けは。 願いが神頼みで叶ったら、オレは努力しないと見抜いてのことなのかもしれない。 なら……。オレのことはいい。 アカギだ。 オレはこいつのことが一番心配なんだ。 まったく、こいつは売られたケンカはすぐ買うし、いつも危ないことばかりしてる。 (アカギが危ないことをしませんように、アカギが危ない勝負をしませんように……! アカギが怪我や病気をしませんように……!) *** 「随分必死に願ってたな、カイジさん」 「お前こそ。珍しいじゃん、元日からお詣りに行こうだなんて」 「そりゃあ……神頼みをしたくもなるさ……」 「?」 オレは人を避けるのにも必死だった。 アカギは面倒くさそうに、ふいっとこちらの手を握って引っ張る。 道行く人たちが繋ぐ手を一瞬見た後、ちょっと変な顔をした後オレたちを避けはじめる。 「いつも怪我して帰ってくるからな、アンタは」 まさか、アカギはオレのことを祈ってたのか? 「お前……、何祈ってたんだ?」 「カイジさんが死なないように。カイジさんが怪我をしないように。 カイジさんがオレを大好きになるように、 カイジさんがいつもオレの側から離れないように。 カイジさんに彼女ができないように。 カイジさんが腹を出して寝て、腹を壊さないように。 カイジさんが道端の物を食べて」 「ストップ……!」 後半おかしい。というか、 「お前、自分のことは祈ってねぇのかよ……!」 「神に頼ってちゃ、人生つまんねぇだろ」 「お前な……」 神をも恐れぬとは、まさにアカギのことだな。 己の力のみで立ち向かって行く男だ。 まぁ……格好いいけど。 「それに……オレのことは、カイジさんが祈ってくれてるだろ」 ニヤッと笑われた。 オレの考えなんか、お見通しって感じだ。 「さぁ……どうだかな」 「じゃあ、何必死に祈ってたんだよ」 「せ、世界平和とか……」 とっさに出た言葉がそれだった。 アカギはたまらずに吹き出した。 赤い鼻をマフラーにうずめる。 「……似合わねぇ……」 「円高とか……」 「ププッ……ますます似合わないな」 アカギの笑いはしばらく収まらなかった。 オレだって真面目なことも祈るつぅの。 まぁ……、九割がアカギのことだったけど。 一割は……。 「お前とずっと一緒にいられますように……」 うなずいたアカギの手をぎゅっと握り返した。 終 →後書き <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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