祈り×願い
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一月一日。神社境内。

珍しくお詣りに行こうとアカギに言われて来たそこは、戦場だった。

どこから沸いたのか神社の隅から隅まで人が詰まってる。

よくもまぁ、ここまで人が来るもんだ。神頼みをしようにも、こんなに大勢いたらひとりひとりの願いすら、神様が覚えてるかどうか不安だ。


押され押されて流されるようにして、オレたち2人はようやく賽銭箱の前に来た。

(アカギ……随分熱心に祈ってるな)

背後から雨のように賽銭が舞い、ラグビーばりのタックルを貰いつつも、アカギは構わずに最前列で両手を合わせている。

そうだ、オレもお願いしないと……。

(え〜と、え〜と)

何も浮かんでこない。
前に兵藤とのティッシュくじで、願掛けに頼った結果負けた。
神は石田さんも佐原もオレも救わなかった。

でも……。
オレはまだここにこうして立っているし、アカギと出会わせてくれた。

まずは……。

(亡くなった佐原や石田さんが、安らかに眠れますように……)

土壇場で神頼みをしてしまったオレへの罰なんだろう、あのティッシュくじの負けは。

願いが神頼みで叶ったら、オレは努力しないと見抜いてのことなのかもしれない。
なら……。オレのことはいい。

アカギだ。
オレはこいつのことが一番心配なんだ。
まったく、こいつは売られたケンカはすぐ買うし、いつも危ないことばかりしてる。

(アカギが危ないことをしませんように、アカギが危ない勝負をしませんように……!
アカギが怪我や病気をしませんように……!)


***


「随分必死に願ってたな、カイジさん」
「お前こそ。珍しいじゃん、元日からお詣りに行こうだなんて」
「そりゃあ……神頼みをしたくもなるさ……」
「?」

オレは人を避けるのにも必死だった。
アカギは面倒くさそうに、ふいっとこちらの手を握って引っ張る。
道行く人たちが繋ぐ手を一瞬見た後、ちょっと変な顔をした後オレたちを避けはじめる。

「いつも怪我して帰ってくるからな、アンタは」


まさか、アカギはオレのことを祈ってたのか?

「お前……、何祈ってたんだ?」
「カイジさんが死なないように。カイジさんが怪我をしないように。
カイジさんがオレを大好きになるように、
カイジさんがいつもオレの側から離れないように。
カイジさんに彼女ができないように。
カイジさんが腹を出して寝て、腹を壊さないように。
カイジさんが道端の物を食べて」
「ストップ……!」

後半おかしい。というか、
「お前、自分のことは祈ってねぇのかよ……!」
「神に頼ってちゃ、人生つまんねぇだろ」
「お前な……」

神をも恐れぬとは、まさにアカギのことだな。
己の力のみで立ち向かって行く男だ。
まぁ……格好いいけど。

「それに……オレのことは、カイジさんが祈ってくれてるだろ」

ニヤッと笑われた。 オレの考えなんか、お見通しって感じだ。

「さぁ……どうだかな」
「じゃあ、何必死に祈ってたんだよ」
「せ、世界平和とか……」

とっさに出た言葉がそれだった。
アカギはたまらずに吹き出した。
赤い鼻をマフラーにうずめる。

「……似合わねぇ……」
「円高とか……」
「ププッ……ますます似合わないな」

アカギの笑いはしばらく収まらなかった。
オレだって真面目なことも祈るつぅの。
まぁ……、九割がアカギのことだったけど。
一割は……。

「お前とずっと一緒にいられますように……」

うなずいたアカギの手をぎゅっと握り返した。






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