拝啓、カイジ先生
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いけ好かない教師がいる。伊藤カイジというヤツだ。

命を大事にとかドラクエの作戦みたいなことを、ことあるごとに必死に語る。


一目惚れの反対があるとしたらそれだ。一目で嫌いになった。新任の教師が紹介され、マイクの前に立ったその日から、一条はカイジが嫌いになった。

見てるとイライラする。
自分は生徒のことをよくわかってるみたいな態度も、不良生徒に体当たりで向かっていく姿も、
いじめられっ子を優しく慰める姿も全部。


「せ〜んせ」

廊下をカイジが歩いている。両手には抱えるほどの教科書。
「亜理沙……なんだ?」

カイジは重たい教材を抱えながらも、亜理沙を振り返った。

(あのバカ……落としてるじゃないか)

落ちた教科書を亜理沙は無造作に踏んだ。手を水平にしてカイジの頭まで高くあげた。

「先生ってさぁ、背高いよね〜」
「え……。そ、そうか?」
「マジマジ。なんか勿体ないんだよね〜」
「……あ、亜理沙……重たい……ち、ちょっと話、後でいいか」
「で、実際何センチあるわけ?」
「え、えーと……」

カイジの両腕は重みに負けて下に下がっている。今にも教材を落として尻餅をつきそうだ。

(まったく……見てられないな)


「先生、それオレが運んでおきます」
「えっ、でも……」

モタモタしてるカイジから教材をひったくった。
まったく、トロ臭い。貧乏臭いのは元からだから治せないけど、もっとしゃきしゃきしろよ。

「悪いな、一条」

カイジは柔らかく笑った。
カイジの大きい手のひらがこちらの頭を撫でる。

コイツ……なにやってる。
小学生じゃないんだぞ、オレは。

カイジの癖だ。誰構わずにすぐ頭を撫でる。
人の心に無遠慮に入ってくる、そのプライバシーのなさが頭にくる。

「先生、前から思ってましたが、先生は……」
「センセー!」

金髪の生徒が、カイジの背に飛びついてきた。

「わっ?! コラッ、佐原、危ないだろ!!」

佐原はぺろっと舌をだす。目的を果たした佐原機はさっそうと帰還していく。

「まったくもう……。しょうがないヤツだな」

佐原が乗ったカイジの背には、『彼氏募集中』と書かれた紙が貼られていた。

(しょうがないのはお前だ)

クスクス笑いだす生徒にも気づかない。
一条はカイジをほうっておくことにした。

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