1/13ページ目 白銀の世界にオレはひとりだった。 360度見渡す限りに何もなく、なだらかな雪の丘陵が広がっている。 山間を吹きすさぶ風は冷たく凍っていて、剣のようにオレの体に突き刺さる。 埋もれた手足は冷たいを通り越していて、かゆくて熱い。 周りには場所の区別や方位を示す物はない。 スノーモービルのシュプールが、唯一の導き手だった。 純白の光の中を半分埋まりながら進んでいく。 オレの名前は伊藤カイジだ……。 ジェームスボンドでもなければ、段ボールが好きな伝説の傭兵でもない。 血生臭い銃撃戦や知謀張り巡らす諜報戦なんてまったく関係ない、ただの一般市民。 そのオレがどうして伝説のスパイ、カマイタチを追跡してるのか……。 話せば長い。無理矢理短くすれば、ある薬品を取り返すためだ。 「ハァ……」 行けども行けどもスノーモービルの姿はない。さっきまで晴れていた空は雲が覆い隠してる。 更にちらほらと鼻先に雪が落ちてきた。 もう帰りたい。 今頃温泉にでも浸かって、日頃の疲れやストレスを洗濯する予定だったのに……。 弱音を吐いていても足は止まってくれない。 先へ先へと心より早く進んでいる。 オレの中の勝手な奴は、マインドブレイクを必ず見つけて処分するつもりみたいだった。 だけど雪が強くなったらこの追跡も終わる。シュプールも消えるし遭難の恐れもある。 白樺の木立の前に、シュプールの跡が交差している。 雪にかすむ前方を注意深く睨んで、シュプールの跡をかがんで見る。小さな筒が沢山落ちていた。 これは……薬莢? <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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