密偵手記 裏
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年齢、国籍、姿形。任務によって全てを偽ってきた。
そうしてるうちにいつしか自分にまでも嘘をつき、他人の心を読み取ることだけに集中してきた。
それがオレであることの証、カマイタチであることがオレの唯一のアイダンティティだった。


他人とは騙すためだけの存在で、入れこむべき物じゃない。
彼をさらってきた理由は犬を拾った時の衝動に似ていた。
利発そうな瞳だったり、艶光りする毛並みだったり、可愛いなと思った。

オレにはとうてい手に入れられない、純粋な心が気になった。
憧憬と言った方がいいかもしれない。
隣にいたらさぞや救われた気持ちになるだろう。

現にオレがあのペンションの前、そぼ降る雪の中で、十余年を過ごした仲間を撃ち殺した時にも何も感じなかった。

ポケットの中で微かに震える手が、オレの心を悔しさや悲しみから遠ざけてくれていた。


「アカギ……!」

久しぶりに隠れ家に帰ると、暖かく大きい物が抱きついてきた。
温もりがオレの身体にじんわり溶けていく。
嘘とか金とか拳銃とか……、そんな世界からオレはそっと抜け出して、カイジさんに寄りかかった。

「ただいま、カイジさん」
「おかえり……!」

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