神域夜話
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引き際を誤ってる。
今すぐに席を立ってカードを投げ捨てるべきだ。
でなければ、長年苦楽をともにしてきた左腕とおさらばすることになる。

『あんたの腕が欲しい』

カイジはそう言われても、これまでは何とか誤魔化してきた。
アカギとの勝負、勝率は一割を切ってる。頭が正気なら、体なんか賭けられるわけがなかった。
だけど今日はツイてた。ふらりと入ったパチンコ屋では勝ったし、スクラッチくじも当たった。
ほんの数千円だが……。
だからつい、勝てると思ってしまった。今日がアカギに勝てる日だと。

『カイジさんは何が欲しいの。カイジさんの腕と対価になるんだ。何でもいいよ……』
『お、お前が……』
『?』
『や、優しくしてくれること……!』

アカギが笑った。
すげぇ楽しそうだ。まったく……言うんじゃなかった。どうしてこれまで奪われた給料を賭けなかったのか。アホかオレは……!

『カイジさんは……いつもそうだな。オレから何か奪おうとしない。……オレと真逆だ』

大体腕をもらって何の得なんだ。飾るのか? 玄関や床の間に? オレにそんな趣味はない。

とまぁ……こんな調子で勝負が始まった。
紫煙につぐ紫煙、長考につぐ長考。部屋の空気は煮詰まっていた。
何時間も悩んだ末、カイジの手札に残ったのは敗北だった。
「ゲームセットだ、カイジさん」

なんで。どうして。いつも。オレばっかり。

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