物書き屋さん
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カイジは言った。顔が赤い。

『好きだ和也! 愛してる! オレを滅茶苦茶にしてくれ!』

「おい」

『か、カイジ本当にいいのかよ? あんなにオレを嫌ってたのに』
『餅論だ。今すぐオレを』

「おい!!和也、いい加減にしろ!!」


オレはペンを原稿用紙に置くと、怒髪天をつく、といっても髪はいつも通りキューティクル。そんなカイジを前にしていた。


「オレを題材にして小説を書くのはやめろ」

まぁた怒ってる。怒ってる姿もかわいいぞ、カイジ。

「別にいいじゃん。日本国憲法知ってるか? 表現の自由ってヤツよ」
「知るか! 大体何だよ、この稚拙な文は……! もう少し捻れよ!
しかも、今時漫画でも私を滅茶苦茶にしてなんていわねぇよ!」

カイジは原稿用紙をつまみ上げて真剣にチェックしてる。

「ほら、それにここ誤字。勿論が餅論になってる。餅論ってなんだよ、餅の良し悪しでも論じるのか?」

原稿があがると、いつもカイジは担当よりも先に読む。
そして休むこともせずに読んで、誰よりもマジに感想を言う。

「愛されてんなぁ、オレ」
「そ、そんなんじゃねぇからっ……!」

オレは机の引き出しを開けてカイジに原稿を渡す。
徹夜した渾身の場面だ。

「何々……、和也はカイジの服を脱がしはじめた。一糸まとわぬ姿を夜気に晒したカイジは興奮してるようだっ……………」

グーパンがオレの頬に多段ヒットした。抉るような拳に、痛みよりもこそばゆい嬉しさと快感が体をめぐってく。

「変態野郎……!」

「変態こそが創作の原動力だ。変態でいい。逸脱してなきゃ、文は書けないぜ」
「カッコつけるな、オレの台詞をパクるな!」

「いや、でもこれはマジな話だぜ。好きなヤツに何でもできるんだ、作家ってヤツは……。幸せもんだよ」
「………本物より、創造の中のヤツの方がいいって言うのかよ」
「は……?」


顔を上げると、カイジの手が頬にかかった髪をのける。
驚く間もなく口づけが降りていた。

「…………」
「本物の方がいいだろ……! バーカ!!」

カイジはそう言って部屋から飛びだしていってしまった。

…………。

なにあれ……。小学生みたい。
つーか……カイジ、まさか、小説の中のカイジに嫉妬してたのか……?

……本当に……。

「本物にはかなわねぇな……。まったく」


オレは原稿用紙を引き出しの中にしまった。
今から追えば追いつくだろう。
ひとりの部屋でまた勘違いをして、寂しい夜を過ごす、不器用すぎるヤツを救いにいくか。



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