1/1ページ目 カイジは言った。顔が赤い。 『好きだ和也! 愛してる! オレを滅茶苦茶にしてくれ!』 「おい」 『か、カイジ本当にいいのかよ? あんなにオレを嫌ってたのに』 『餅論だ。今すぐオレを』 「おい!!和也、いい加減にしろ!!」 オレはペンを原稿用紙に置くと、怒髪天をつく、といっても髪はいつも通りキューティクル。そんなカイジを前にしていた。 「オレを題材にして小説を書くのはやめろ」 まぁた怒ってる。怒ってる姿もかわいいぞ、カイジ。 「別にいいじゃん。日本国憲法知ってるか? 表現の自由ってヤツよ」 「知るか! 大体何だよ、この稚拙な文は……! もう少し捻れよ! しかも、今時漫画でも私を滅茶苦茶にしてなんていわねぇよ!」 カイジは原稿用紙をつまみ上げて真剣にチェックしてる。 「ほら、それにここ誤字。勿論が餅論になってる。餅論ってなんだよ、餅の良し悪しでも論じるのか?」 原稿があがると、いつもカイジは担当よりも先に読む。 そして休むこともせずに読んで、誰よりもマジに感想を言う。 「愛されてんなぁ、オレ」 「そ、そんなんじゃねぇからっ……!」 オレは机の引き出しを開けてカイジに原稿を渡す。 徹夜した渾身の場面だ。 「何々……、和也はカイジの服を脱がしはじめた。一糸まとわぬ姿を夜気に晒したカイジは興奮してるようだっ……………」 グーパンがオレの頬に多段ヒットした。抉るような拳に、痛みよりもこそばゆい嬉しさと快感が体をめぐってく。 「変態野郎……!」 「変態こそが創作の原動力だ。変態でいい。逸脱してなきゃ、文は書けないぜ」 「カッコつけるな、オレの台詞をパクるな!」 「いや、でもこれはマジな話だぜ。好きなヤツに何でもできるんだ、作家ってヤツは……。幸せもんだよ」 「………本物より、創造の中のヤツの方がいいって言うのかよ」 「は……?」 顔を上げると、カイジの手が頬にかかった髪をのける。 驚く間もなく口づけが降りていた。 「…………」 「本物の方がいいだろ……! バーカ!!」 カイジはそう言って部屋から飛びだしていってしまった。 …………。 なにあれ……。小学生みたい。 つーか……カイジ、まさか、小説の中のカイジに嫉妬してたのか……? ……本当に……。 「本物にはかなわねぇな……。まったく」 オレは原稿用紙を引き出しの中にしまった。 今から追えば追いつくだろう。 ひとりの部屋でまた勘違いをして、寂しい夜を過ごす、不器用すぎるヤツを救いにいくか。 終 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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