半月の君
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長い眠りをやぶったのは、芳醇な血のかおりだった。

黒い絹のマントの上には少年が重なっていた。
棺につまずいたのか、大きな釣り目がちな目で見ている。
肢体は適度に筋肉がはっていて、柔肌の下のものが上等だとわかる。

こんなにいい匂いは初めてだ。
我慢できずに少年を背中から捕らえた。
細い身体は牙をあてると震えた。
ぷっと肉が破れて紅い雫が滴る。たまらない味だった。
下肢が熱くなる。力がみなぎってくる。

抵抗や悲鳴がないのに気づいて、アカギは少年を見下ろした。
少年は陶然とした目ですっかり力をなくしていた。
細い脚の間が丸く膨らんでいた。

(………)

吸血は麻酔効果がある。
だけど、吸血が快感な人間にはついぞ会ったことがない。
少年の身体の上に、指を走らせる。ある箇所で身体をしならせた。

すっかり渇きを忘れていた。
もう一度首に牙をあてる。少年の目から光が消えた。

「名前は」
「伊藤、カイジ……」

カイジは最後の力を振り絞って、腕から去ってしまった……。


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