愛と剣と女王
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亜理沙に哲学はない。正義もないし倫理もなかった。
あるのは怠惰に流れていく生活と物欲だけ。
彼女がするのは消費だけだ。適当に楽しければいい。
そんな生活は唐突に途絶えた。
胸を貫く鋼の音。肉を割り、肋骨を砕き内腑に厚くそれは刺さった。
冷たい剣。
それが彼女の人生を断罪した。

夜の街は喧騒を離れていた。
乗り手を失った暴れ馬のように、赤いスポーツカーが疾駆していた。
華やかなネオンも心を慰めはしない。

負けた。
臨海大橋での勝負、亜理沙は飛べなかった。
飛べない者と飛べなかった者の差は歴然だ。亜理沙はいつまでも橋に這いつくばっていた。

(アカギしげる……!)
ハンドルを乱暴に切ると、タイヤが物悲しく鳴いた。
馬は亜理沙の心のままに駈けた。

(次は飛べるはず……!!
あたしは、あたしは一度死んだんだから……、死ぬのなんか……怖くない!)

目前の信号は赤だった。左手からはダンプカーが走ってくる。
亜理沙はブレーキを踏まなかった。馬はなお加速してそのまま交差点に突っこむ。
ダンプカーの運転手の表情がコマ送りで蒼白になっていく。
オーボエみたいなクラクションとともにダンプカーが目前に迫った。
一瞬の静寂。
ハンドルから顔をあげる。
ぶつかる直前に、ダンプカーは大きく右にハンドルを切っていた。

(やっぱり……やれるじゃない。次こそは、アカギしげる……あたしが勝つわ)

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