1/21ページ目 亜理沙に哲学はない。正義もないし倫理もなかった。 あるのは怠惰に流れていく生活と物欲だけ。 彼女がするのは消費だけだ。適当に楽しければいい。 そんな生活は唐突に途絶えた。 胸を貫く鋼の音。肉を割り、肋骨を砕き内腑に厚くそれは刺さった。 冷たい剣。 それが彼女の人生を断罪した。 夜の街は喧騒を離れていた。 乗り手を失った暴れ馬のように、赤いスポーツカーが疾駆していた。 華やかなネオンも心を慰めはしない。 負けた。 臨海大橋での勝負、亜理沙は飛べなかった。 飛べない者と飛べなかった者の差は歴然だ。亜理沙はいつまでも橋に這いつくばっていた。 (アカギしげる……!) ハンドルを乱暴に切ると、タイヤが物悲しく鳴いた。 馬は亜理沙の心のままに駈けた。 (次は飛べるはず……!! あたしは、あたしは一度死んだんだから……、死ぬのなんか……怖くない!) 目前の信号は赤だった。左手からはダンプカーが走ってくる。 亜理沙はブレーキを踏まなかった。馬はなお加速してそのまま交差点に突っこむ。 ダンプカーの運転手の表情がコマ送りで蒼白になっていく。 オーボエみたいなクラクションとともにダンプカーが目前に迫った。 一瞬の静寂。 ハンドルから顔をあげる。 ぶつかる直前に、ダンプカーは大きく右にハンドルを切っていた。 (やっぱり……やれるじゃない。次こそは、アカギしげる……あたしが勝つわ) <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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