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カイジBR :re
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胸のナイフには鮮血と赤みがかった目が映りこんでいた。
寂しげに見える目にふと触れたくなる。
だけどそれは叶わない。オレの腕はまったく動かない。
みんな死んでしまった。
そしてオレも死んでいく。
どうしてこんなことをするのか次があったら問いただしたい。
次があったら必ずお前を止めてみせる。

「アカギ……」

アカギは銃口を自分のこめかみに当てている。
やめろ。お前は勝ったのにどうして死ぬ必要がある。
なんのためにみんな死んだんだ。


カイジBR:re


無難なアイドルソングでオレは目覚めた。
バスから見える景色は、たわいもない褪せた山間がつづいてる。


(夢……?)

妙にリアルな夢だった。
今でも動悸と鼓動が激しい。手のひらは冷たく濡れていた。
夢でオレは修学旅行中にさらわれて生徒同士で殺しあいをさせられる。
バトルロワイアル。
この極東では珍しいことじゃない、毎年行われる最悪な競技だ。



(クソッ……嫌な夢だな……。よりにもよってなんでアイツに)

オレはバスの後方を振り返った。
褐色の目に射抜かれた。
白い髪のアカギしげる。出席番号一番。
転校してきてから誰とも交じわらない、一点の白。
素行の悪さや生傷にクラスメイトは誰も近寄らない。危ういヤクザとつるんでる噂がある。

(苦手なんだよ、アイツ)

オレにだけ威嚇するように睨んでくるし。そのせいでアイツの目の前だけで失敗をしてしまう。

「カイジくん……どうしたの?」
「い、いや……変な夢見ちまってな……」


坂崎美心。
近所の子だ。小さな頃から親父さんには世話になってる。
話す途中から佐原にマイクが渡った。
お調子者の佐原はアイドルの振り付けをトレースしてる。

(あれ……夢と同じ)

バスのデジタル時計は午前10時になってる。
市内を抜けて高速に入ったところ。
この30分後にオレたちは睡眠ガスで眠らされるんだ。

まさか……本当にあったことなのか?
あんな殺しあいをオレたちのクラスでやるなんて。
あれが本当だとしたら……佐原は次の歌詞をとちる。

「おい、佐原間違えてんぞ〜!」


後ろの工藤涯は中国の詩集を読んでるはずだ。
隣の零は携帯で記事をあさっていた。『通信衛星の脆弱性を警告される。遠隔操作で船舶の……』

佐原がサビで咳こむ。
「ごほっ、ごほ」

亜理沙がクッキーを配ってる。湿った食感に混じるしょうがと多すぎる砂糖。おいしくないのであれはスルーだ。

やっぱり……夢と同じだ。

(おいおいマジかよこれ……。
バトルロワイアルって。よりにもよってなんでうちのクラスで。
本当に起こることなのか……?
勘違いって線も……でも、もしあれが本当なら止めないと……。そうだ、修学旅行を中止にすればいいんだ)



「いた、いたたた……!! いたた……!?」

オレは床に倒れた。
歌声が止まる。
騒いでた前方も振り返った。


「カイジくん、大丈夫……?!」
「いたた……!!」

担任の利根川が駆け寄ってくる。

「大丈夫か。どうした」
「腹が……くるし……」
「カイジくん」

利根川は後ろについてるバスを振り返った。懐に手をやる。
以外にも近寄ってきたのはアカギだった。
冷たい手が肩にかかって思わず払いのけた。


「お前なんかに助けてもらわなくて結構だ……!!」

鉄面皮はなにを考えてるかわからない。
だけどよくも人を殺しやがって。
詳細はまったく覚えてねぇが許さねぇぞ。
おかしい。怒りよりも先に来たのは悲しみだった。

「なんでだよ……なんでオレを殺したんだよ!!」

叫ぶと同時に鳩尾に衝撃がきた。
殴ったアカギは相変わらずの無表情だ。

ち、チクショウ……。次は絶対オレが勝つ。
待ってろよ、アカギ……。




※※※※

「うっ……ここは……」


見慣れない教室だった。
教壇にはいつもの利根川がいた。
だけどなにかが違う。席にはオレ以外の生徒はいなかった。
墓場みたいな静寂だった。


(嘘だろ……)


幸い利根川はまだオレに気づいていなかった。
どうにか……どうにかならないか。利根川だけならオレ一人でも……。
オレは机の中をさぐる。
教科書にノート。
なにか固いものに触れた。シャーペンだ。
後頭部になにかが当たる。
振り向くと古いリボルバーを持った軍人が立っていた。


「カイジくん。今日は君に殺しあいをしてもらう」
「!!」

来てしまった。結局未来は変えられなかった。

「君のその首輪は……無理に外そうとすると爆発する」

オレは首輪に手をやった。
冷たい感触。
淡々とした利根川のゲームの説明が頭に入らない。

「他のみんなはもう……?」
「ああ。2時間前に開始してる」
「2時間も!」

オレは利根川の持っていたザックと自分の鞄をひったくった。
こうしちゃいられねぇ。みんなを止めないと。
ザックのジッパーを開けると武器が入っていた。
これは……手錠か?

二組の輪と説明書が入ってる。猫の鈴。
……前とは違う武器だ。
見た目は首にはまった首輪と似てる。


『生き残ったものだけが家に帰れる。
武器は一人一人に配給されるがランダム。
首輪は外そうとしたり、禁止区域に入ると爆発する』

オレは左手に輪をハメた。腕時計はザックの紐に結ぶ。
時刻は19時を過ぎていた。
ダメだ……よく思い出せない。かろうじてこの時刻は美心と行動していた記憶がある。

(一周めで危なかった奴は……)

兵藤和也。大企業の息子だ。
和也に遭遇した時はサブマシンガンで襲われた。

小林亜利沙。
派手なグループに属してる、見た目は可愛いが何人もクラスメイトを殺した。

そしてアカギ。
アカギは最初からリボルバーを引いていた。

オレは勝手口から出た。
外はもう暗い。辺りに誰もいないのを確認してから一歩でる。

「うっ?!」


大柄な死体がドアに持たれるように倒れていた。
船井。

船井の首にはアンテナみたいに銀色の矢が刺さっていた。
混濁した目はオレを見ている。
吐き気をやり過ごして辺りを見回す。

送れたためか襲撃者はいないみたいだった。すでに船井の荷物も持ち去られて気配もない。
地図では分校の周りは藪に囲まれて南は海岸になってる。


オレは……


近くの藪に入った。
見通しのいい海岸へ向かった。

オレは海岸へ向かった。
見通しがいいぶん、誰かいたらすぐわかる。
夜の海岸は静かだった。
波音だけが島を包み込む。オレはとぼとぼ海岸を歩く。
船は一艘もなかった。逃げられないように隠したのか、もともとないのか……。

寒々しい風景に嫌になった。
このまま海を泳いで爆死した方が幸せかもしれない。
アカギに殺される苦痛を味わうくらいなら。

遠い岸壁でなにか光った。
それが何かを知覚する前にオレの脳天には銃弾が貫通していた。
一瞬で思考も言葉も消え去った。

終「スナイパー」



オレは藪に入っていった。
見通しが悪いし暗い。背後にはあるようなないような気配があった。

息を潜めつつ草を掻き分ける。

すでに殺しあいははじまってしまった。
みんなを助けるなんてこと……できないだろう。
だけどせっかくやり直せたんだ。できるだけ悲劇を回避したい。
そのためには零や涯の協力が必要だ。
前のバトルロワイアルではオレは零と涯には一回も会えなかった。
零の力を借りたい。何とかして連絡できないだろうか。

ポケットの中で携帯が鳴ってオレは飛び跳ねた。
踊るような手つきで携帯を探った。

(な、こんな大音量……!! 的じゃねぇか!)


何故か目覚ましアラームがセットされていた。

オレはボタンを押してアラームを止めた。
足元を熱いものが掠める。

「動くな」

冷たい双眸がオレを射止める。
あ……アカギしげる……!?
こんなしょっぱなから会うなんて……ツイてねぇ!

「武器をこっちに投げてよこせ」

まさか変な輪が武器だとは思わないだろう。
オレはザックを地面に下ろして探った。
酒瓶を投げてよこした。
修学旅行用に持ってきたとっておきだ。
ウィスキーの瓶は月光を照り返してアカギの顔に向かってる。

リボルバーが火を噴いた。アカギは反射的に酒瓶を撃ってしまった。高い身体能力があだになったな……!
今だ!

オレはアカギに体当たりした。
猫の鈴を手首にはめる。アカギの蹴りをまともに食らってオレは吹っ飛んだ。

「これは何だ……」
「へへ……いい気味だ。猫の鈴って言ってな、オレが死んだらそれをつけてるお前も死ぬ」
「……」

アカギが初めて驚いたような顔になる。

アカギは興味をなくしたようにリロードしてる。そしてオレを置いていく。

「ま、待て待て……!! 話聞いてなかったのかよ!」
「聞いてたさ。バディなんでしょ、アンタ」
「バディ……?」
「オレはアンタに合わせる気はないから。アンタがついてくるんだな」
「ちょ、ちょっと待てよ!! お前何が目的なんだよ! いきなし人を襲って……!」
「オレはゲームをしてるだけ」
「ふざけんな!! 人が死んでるんだぞ!」
「負けたら死ぬ。それがルールなんでしょ」
「それで済まされるか! みんな家族がいるんだぞ!」
「オレにはいない」
「……」

初めてアカギの内面を見た気がした。

「オレが死んでも悲しむ奴なんかいないさ。精々便利な道具がなくなっただけって思うだろうよ……」

オレが悲しむ
とりあえずぶん殴る


「うるせぇ!」

オレはアカギに襲いかかった。
やりきれない思いが胸にある。
オレを殺したくせにその寂しい顔はなんだ。
アカギは地面に倒れる。上になったり下になったり。
頭突きしたり噛みついたり滅茶苦茶だった。
最後に地面に倒れてたのはオレだった。
頭にアカギの靴底がめりこむ。



「弱い癖に……アンタはいつもオレに刃向かうのな」




「オレが悲しむ……!」
「……こんな悪漢を?」
「クラスメイトだろ」
「……おかしな奴だなアンタ。オレの周りにはいないタイプ……」



アカギは口元だけで笑った。

「精々死なないように」


つづく

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