1/7ページ目 盗賊団に焼かれた村には、少年しか生き残りがいなかった。 炎からすくいあげたのは小さな少年だった。 肌は雪花石膏のように白い。 小さな手のひらがアテムの手を握りかえす。 (何てむごい……) (オレがもう少し早く着いていれば……) 「皇子。自分を責めてはいけません」 「マハードか……オレは一体、コイツに何て声をかけてやればいいのか……」 「皇子……あれを!」 炎の中に巨大な竜がいた。 光沢のある黒い鱗が爛々と光っている。 黒い竜は軍を見下ろしている。 (何て美しい竜なんだ) 黒い竜はどこの神界でも見たことはないものだった。圧倒的な力を感じる。 「ひ、ひぃい……化け物……」 「皇子をお守りするのだ!」 「待て……! 竜に攻撃するな!!」 怯えた兵士が槍を投げた。 アテムは咄嗟に投げた槍に向かって手を差し出した。 手のひらに槍が貫通してアテムは片膝をつく。 黒い竜が頭を垂れる。 黒い竜はアテムの傷ついた手のひらを舐める。 竜の目は破壊だけじゃない光があった。 黒い竜は消えていった。 (まさか……この者の精霊なのか……?) 幼い姿にこんな力があるなんて……。 精霊の能力は宿主の欲求を現す。圧倒的な破壊を感じたのは、少年がすべてを破壊したい憎しみを秘めているからだ。 寝台に横たえると、少年の目から涙が流れた。 アテムは手を握った。 「皇子、なりません! 下々の者になど……」 「頼む。ふたりにしてくれ。オレならこの少年の精霊を鎮められる」 「皇子……」 神官たちは部屋をあとにする。 アテムは祈る。 (頼む……死ぬな) 「なに……?」 握った手から少年の記憶が流れこんできた。 燃やされる村。あたたかい家族。 少年の瞼がぴくりと動いた。 少年は目を覚ました。 アテムの顔に触れてくる。 「どうして泣いてるの……?」 「え……」 アテムは言われて初めて泣いてるのに気づいた。 少年は弱々しく笑った。 「大丈夫……ボクがいるよ」 少年はアテムの肩を抱いた。 その瞬間、なにか堅いものが一気に溶けるのを感じた。 だからかもしれない。 名を問われて、教えてはならない真名を教えてしまった。 少年の名前はユウギ。 ユウギはこの世界でただひとり、皇子の名前を口にする。 「アテム」 ユウギに名前を喚ばれるたびに、支配されるような、力が湧いてくるような感じがした。 だから自分も喚びかえす。 「ユウギ」 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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